瀧本哲史氏「新聞が強いのは販売網を持っているから」
1週間ほど前の記事ですが、参考になりそうなので紹介しておきます。
「『モノを持たないネットメディアに勝ち目はない』瀧本哲史が語るメディア業界」というインタビューです。
書き手の大熊将八さんは、3月に東大を卒業したばかりの若者ですが、現代メディア論に詳しく、自ら取材したり調べたりしたことをブログで発信しています。
今回インタビューした瀧本氏は、大熊さんのゼミの先生だったようですね。
瀧本氏は投資家であり、ベストセラー「僕は君に武器を配りたい」の著者でもあります。
短いインタビューですが、重要部分を引用します。
大熊 ネットメディアも質を高めていく必要があります。これまでのようにPV稼ぎだけを考え、コストを削って、釣りタイトルと炎上コンテンツあるいはコピペで勝負する世界では永遠に質が高まらないと思います。
瀧本 これは、テレビが新しいメディアとして現れた時に映画・ラジオという2つの産業が破壊されたことに似ています。無料で映像コンテンツを流すなんて、絶対成功しないと多くの映画製作プロダクションは言ったんです。だから、最初は、プロダクションの中でもセカンドラインの人たちがテレビ業界に参入していった。
ただ、広告代理店とテレビキー局が映画よりも安定的にお金が供給される仕組みを発明しました。コスト効率のいい「連続ドラマ」を発明し、若手が登用されない映画業界を後目に若いスターを次々と輩出しました。このビジネスモデルを創るのに大きな役割を果たしたのが、電通です。
同じようにネットメディアもビジネスモデルを創れればいいんですが、ネットには独占がありません。コンテンツやプレーヤーを囲うクリティカル・マスを超えられないのです。ここがテレビとの一番大きな違いです。
物理的な囲い込みがあるからこそ勝てるんですよ。コンテンツ以前に、1家に1台のテレビという「モノ」が大事なんです。アメリカではケーブルテレビが強いですが、これもセットトップボックスという物理的なものです。
経済情報の世界で、ブルームバーグがロイターを倒せたのも端末という「モノ」を売ったからです。新聞が強いのも販売網を持っているからです。私は昔ケーブルテレビに投資して、経営陣を一新して、一年ちょっとで加入者を倍増させたのですが、スカパーなどに勝てたのは人力の営業網を徹底的に強化したからです。
ネットメディア全盛の今、「モノを持っている方が強い」というのは意外な指摘です。
しかし、新聞社の販売網(宅配網)は「新聞社が持っていて、ネット企業にはない強みの一つ」だと思います。
逆に、部数が減って販売網が維持できなくなってきた時、新聞社は強みをまた一つ失うことになります。
この資産をどう活用すれば新たな収益源となるのか、さらに頭をひねる必要がありそうです。
はてブで新聞記事へのコメントを確認する方法
前に書いたブログ記事で、「新聞社が生き残るために何が必要か」という質問に対する、世界銀行勤務の西田一平さん(まだ27、28歳です)の答えを紹介しました。
その中に「NewsPicksやはてなを使って、自社の記事へのコメントを確認し、社内にフィードバックせよ」という提言がありました。
NewsPicksについては、このブログでもたびたび紹介しているので、今回は「はてなブックマーク」を使ったコメントの見方を確認します。
まず、はてなブックマークの基本的な解説と使い方については、このnanapiの記事「知らないと損する!便利すぎる!はてなブックマークの使い方」をご参照下さい。
ここでは、実際に記事のコメントを見る流れをご紹介します。
私はブラウザにGoogle Chromeを使っているので、ここで専用の拡張機能をインストールしました。
他にもnternet Explorer、Firefoxに対応したものがあります。
使い方はこうです。
まず、コメントを参照したい朝日新聞デジタルの記事を開きます(一部画像処理しています)。
拡張機能をインストールすると、アドレスバーの右あたりに、はてなブックマークのアイコンがあるはずなので、これをクリックします。
すると、こんな画面が出るはずです。
赤字で書かれた「19users」という文字がありますね。
これは、19人のユーザーが「はてブ」を使ってこの記事をブックマーク(お気に入り登録のようなもの)したということです。
で、この19usersというのをクリックします。
すると、次の画面でコメントが見られます。
単純に記事をお気に入り登録しただけの人もいるので、19人全員がコメントしているわけではありません。
しかし、記事によっては数十から数百のコメントを読めるので、大いに参考になるはずです。
コメントが増えてきた場合、「人気コメント」というタブを押すと、支持数の多い順にコメントを読むことができます。
記事への直接の反応をリアルタイムで見るという意味で、非常に有用なツールだと言えます。
新聞社の方には、NewsPicksと合わせてご活用いただきたいと思います。
朝日新聞は門田氏のブログ記事に反論すべき
ノンフィクション作家の門田隆将さんという方が「共同通信が決着させた朝日新聞『吉田調書』誤報事件」というのをBLOGOSに寄稿しています。
BLOGOSではこの日、「最も支持を集めた記事」になりました。
コメント欄でも例によってボコボコにたたかれています。
まあ朝日批判の記事を書けば、BLOGOSでは確実に支持されるんですが……。
この記事についてのNewsPicksのコメント欄はこちら。
さほどユーザーの関心を集めず、投稿者も10人そこそこ。
TOP20に入ることもありませんでした。
ちなみに最もLIKEを集めたのは、NewsPicksを運営するユーザベースという会社のアナリスト・Kato Junさんのコメント。
朝日がつけた1面の見出しについては批判的ですが、吉田調書の報道自体の価値は認めてくれています。
ただ、相変わらず問題だと思うのは、朝日側がこの門田氏の記事について何も語らず沈黙していることです。
門田氏は以前、朝日の吉田調書の報道を批判する記事を週刊ポストに書き、これを受けて朝日側が週刊ポストに抗議しています。
今回の門田氏のブログ記事についても、吉田調書の取材をした記者たちは言いたいことがあるはずなのに、一切発言しない。
紙媒体(週刊ポスト)には抗議するが、ネット(BLOGOS)への投稿についてはだんまり。
これってすごい古い考えだと思うのです。
いま、特に若い世代の世論はネットを中心に形成されていると言っていいと思います。
そこに対して、一切無視を決め込み、何ら効果的な広報・宣伝活動をしていない。
吉田調書の記者たちが連名で反論文をどこかに投稿すればいいんですよ。
まあ門田氏やその取り巻きのネトウヨたちは、また揚げ足取りしてくるでしょうが、とりあえず一度は見解を示した方がいいと思います。
黙ったままだと、どうしても見ている側の心証は「朝日が反論しないのは、痛いところを突かれているからなのか」となりがちです。
下は今回のBLOGOSの記事についての、西田亮介氏のツイート。
西田さんはまだ30歳そこそこの立命館大の教員です。
毎日新聞にネット選挙についての企画を持ったりしていて、新聞やジャーナリズムに対して理解のある方のはずですが、それでも印象としてはこうなるんですね。
とにかく「ネット上のコメントなんて、どうせ一部のネトウヨがやっているんだろ。一切無視します」という朝日の方針が、じわじわと自社のブランドを損なっているように思います。
確かに彼らの言うことのほとんどは、下らなくて相手にするに値しないかもしれません。
しかし、特に若い世代を中心に、ネットでしか情報収集しない人が増えています。
ネット上の朝日への批判を放置しておくという行為自体が、自社のイメージ悪化につながっています(すでにだいぶひどい状況に見えます)。
以前にも書きましたが、ネット上の広報・PR活動をどうすべきか、朝日新聞は真剣に検討すべきだと思います。
「見出しに『LINE』と入れたら批判コメントが殺到」問題を考える
またしても「朝日は早急にソーシャル担当者を置くべきだ」と感じるできごとがありました。
朝日が報じた「LINEで約束、決闘した容疑 少年13人書類送検」という記事。
まず最初に引用します。
少年グループ同士が無料通話アプリ「LINE(ライン)」を通じて決闘の約束をして殴り合いをしたとして、福岡県警中央署は24日、いずれも当時中学3年で、福岡市や同県の糸島市、粕屋郡内などの15歳と16歳の少年の計13人を決闘容疑で書類送検し、発表した。全員が容疑を認めているという。
発表によると、少年らは昨年11月16日午後、福岡市中央区の舞鶴公園やマンション敷地内で、1対1の殴り合いをした疑いがある。1人が小指の骨が折れる重傷を負った。
高校の体験入学会に参加していた福岡市の中学生(15)と粕屋郡の中学生(15)のトラブルが発端。「LINE」で「出てこいよ」「お前が出てこいよ」などのやりとりをして決闘の約束をした。舞鶴公園には見物人を含め約100人が集まり、通行人から「ケンカをしている」との110番通報があったという。
これに対するNewsPicksのコメント欄がこれ。
一時はNewsPicksのTOP20で2位まで来ていました(要するに、大勢に読まれ、コメントされたということ)。
今はLIKEの多い順に並んでいないかもしれませんが、TOP20に入っている間はLIKE順に並びます。
で、圧倒的多数のLIKEを集めたのがこのコメント。
162LIKEというのはNewsPicksではかなり大きな数字です。
このコメントにLIKEを押した人たちは、さらに同様のコメントを自ら書き込みます。
「またこうやってLINEを悪者にしようとする記事」「なんで題名にLINEが来るのかわからない。関係ないでしょ」とか、そんな感じのコメントであふれました。
これに対し、朝日新聞デジタル編集部の古田さんが途中でコメントを投稿しました。
それなりにLIKEを集めましたが、それでもLIKE数の順位で6番目か7番目です。
この件から学ぶべきことは三つ。
- 朝日新聞あるいは報道機関全体への不信感(特に若い世代)が半端じゃない
- 紙の新聞では当たり前の見出しをそのままネットに使っても理解されない
- 反論コメントは上位に来ないと読まれない
それぞれについて少し書きます。
まず1の「朝日新聞あるいは報道機関全体への不信感(特に若い世代)が半端じゃない」について。
批判的なコメントをしたのは、いわゆるネトウヨと呼ばれる人たちだけでなく、普通の大学生や若手の社会人が多そうです。
もはや朝日新聞は彼らにとってブランドではなく、むしろ「からかいの対象」「信じてはいけないもの」になりつつあるように思います。
逆に朝日新聞を支持する人は「ネットを上手に活用することのできない情弱(じょうじゃく=情報弱者のこと)」であるとさえ見なされている感があります。
これはネット上で朝日新聞が常にたたかれ、にも関わらず朝日側がそれを一切無視してきたことが強く影響していると思われます。
朝日側のネット広報戦略の失敗(というか戦略の不在)が招いた結果と言えます。
そして、彼ら若い世代の間には、報道機関全体に対する不信感も根強いようです。
例えば先日もハムスター速報で、次のような記事が流れました。
「マスゴミが『アニメを見る人=犯罪者』という印象を植え付けようと必死www」
ハム速は笑えるネタ、軽めのネタを扱うことが多く、高校生や大学生の間でよく見られているようです。
日常的にこういう記事に触れていれば、「マスコミはアニメやネットを悪者扱いしている」という印象を持つようになっても不思議じゃありません(ちなみにハム速は「高校生や大学生が何を面白がっているのか」を知るために非常に有用なので、ツイッターでフォローすることをお勧めします)。
次に、2の「紙の新聞では当たり前の見出しをそのままネットに使っても理解されない」について。
今回の古田さんのコメントは実に的確で、全く正論だと思います。
また、他のコメントの中にも「LINE関係あるでしょ」という意見もあります。
しかし、現実として「LINE関係ないだろ」という意見が圧倒的多数のLIKEを集めている。
そして、その事実が、「やはりマスコミはネットやアニメを悪者扱いしようとしている」という印象を若い世代の間で増幅させるわけです。
見出しには見出しのルールがあり、新聞社はそれを代々受け継いできたわけです。
そして、今までは新聞読者の側も、継続的に新聞を読むことで、その勘所というのを理解してくれました。
しかし、今やそもそも若い世代が新聞を読んでいない。
だから見出しのルールも知らない。
それよりも彼らが日常的に触れている「マスコミはネットやアニメを敵視している」という言説の方に共感する。
データの裏付けがあるわけではありませんが、あながち外れてはいないと思います。
この辺りのことを意識している人が、新聞社側にどれだけいるでしょうか。
最後に3の「反論コメントは上位に来ないと読まれない」について。
今回、古田さんが途中でコメントを投稿したのは素晴らしい対応だと思います(今までの朝日なら、相変わらず無視を決め込んでいたでしょうから)。
しかし、いかんせん投稿するタイミングが遅かった。
投稿が遅れると、コメントが下位に沈み、人の目に触れにくくなります。
いくらまともなことを言っても、読まれなくてはLIKEがもらえず、コメント上位に浮上することもできません。
おそらくNewsPicks読者の中には、コメント順位1番目だけとか、せいぜい3番目くらいまでしか読まない人がかなりいると思います。
その意味で、いかに早くこの手のできごとを把握し、迅速に反証コメントを投稿するかが大事です。
したがって、ここですでに2度書いてることですが(これとこれ)、朝日は社内にソーシャル担当者をさっさと設置すべきです。
朝日社内でこうした危機感が早く共有され、具体的な行動に移されるよう期待しています。
NYTの社内向けリポートに学ぶ、既存メディアの生存戦略
New York Timesの中堅・若手メンバーが中心となってまとめた、会社への提言リポート。
市川裕康さんという方が、このリポートのポイントをまとめ、和訳した資料を作られたそうです。
以下、それを紹介したサイト。
あれ、なんか文字化けしてますが、気にせず続けます。
下はその資料についてのNewsPicksのコメント。
朝日のデジタル戦略のエース、古田さんもコメントしてますね。
印象的だった部分をざっと書きます。
- スライド6枚目。既存メディアがどうやって新興メディアに読者を奪われるのかについての考察。最初は新興メディアの記事はショボイので、既存メディアは「こいつらは相手にならん」と無視する。しかし、徐々に新興メディアの記事の質が上がってくる。読者が「これくらいでいいかな」と思える品質の記事が出るようになると、一気に読者を奪われる。
- スライド18枚目。「ジャーナリストは、競合他社の取組を『戦略』という視点ではなく、『コンテンツが良いか悪いか』という視点で見てしまいがち」という指摘。これは朝日を始め、他の新聞社にも当てはまりそうですね。ジャーナリストは「Gunosyなんて駄記事ばっかりだから競合にならない」とか考えがち。でも、読者が求めているのは、必ずしも高品質な記事ではない。
- スライド36枚目。「歴史的に編集局とビジネス部門の間には壁があり、記事を書くのは記者、広告を獲得し収益拡大を担うのがビジネス部門と捉えられていた。垣根を取り払い、編集局とビジネス部門(特に消費者員サイト部門、テクノロジー、デジタル・デザイン、R&D、プロダクト部門など)との協業が求められている」という指摘。日本の新聞業界に当てはまると思います。
-
スライド45枚目。採用に関して。以下、引用「①我々の持つスキルギャップを明確にして積極的に足りない部分の採用を行う。(②は割愛)③デジタル人材の採用に関しては伝統的なジャーナリズムの経験の比重を下げ、ジャーナリズム人材の採用時にはデジタルスキルの比重を高める。④新しいアイディアをもたらすためも、伝統的な競合からの採用よりも創造的なスタートアップからの採用を行う⑤我々のジャーナリズム(紙面・ウェブ)を採用の手段として活用して優秀な人材に寄稿などをしてもらう」。果たして朝日新聞も、最近の採用活動はこういう方針でやっているんでしょうか。相変わらずジャーナリスト志向の人ばかり採っていたりして……。そういう人はもう十分いるはずです(というか、それしかできない人が多い、というのが実情でしょう)。足りないのはデジタル系の人材。
だいたい以上です。
大いに学ぶところのあるリポートですね。
各論については稿を改めます。
記事炎上に見る、ソーシャル担当者の必要性
朝日が22日に報じた「ベネッセ情報流出、謝罪を「外注」 派遣会社が電話対応」という記事が炎上しました。
下記はその記事をめぐるNewsPicksのコメントですが、9割以上が朝日への批判です。
以下の3点はニュース価値があると思います。①情報流出を機にいったんクビにした派遣社員たちに対し、「やっぱり人手が足りない」ということで謝罪要員として募集をかけた②それに対して「信じられない」と怒っている派遣社員が現にいる③ベネッセがこの件について「口外しないように」と注意喚起していることから、「後ろめたいことをしている」という意識がベネッセ側にある別に派遣社員を軽視しているとか、仕事の外注自体にダメ出ししているとか、そういう内容ではないんじゃないかなーと。
- ウェブ上のパトロール
- 炎上事案への対処
- 自社記事への反応をまとめ、社内に毎日フィードバックする
朝日への新卒入社、東大卒が1人いるみたい
朝日新聞に2014年春に入社した社員に東大生が1人もいなかった、という記事をJ-CASTニュースが4月に書き、ネット上で話題になりました(以下、「東大生は他大生に比べ、社会人としても優秀である可能性が最も高い」という前提で書きます)。
J-CASTの記事がウソだったのか、あるいは後から内定辞退でも発生して1人繰り上げになったのか、真相は謎です。
渡邉さんの言う通り、日経には競合がおらず、デジタル課金で一般紙より有利なのは間違いないと思います。
ただ、日経への東大生の入社数、確かに今年は10人ですが、去年は1人ですからね。
この1年でデジタル環境が激変したわけでもないし、「デジタルで有利だから」という理由だけで日経が急増したわけでもないでしょう。
日経も紙とデジタルを合わせた部数は減らしてますし。
ただ、新聞業界全体が就職先として魅力を失いつつあるのは間違いないと思います。
これは「紙の新聞を宅配する」というビジネスモデルの「次」が構築できていないからです。
今は新興メディアブームですが、どうやって収益化するかについては成功例がほとんどなく、言わば殴り合い状態です(既存メディアは収益力を失うが、振興メディアももうからない状態)。
この殴り合いがいつまで続くのか、新しい収益モデルが果たして見つかるのか、それを既存の新聞社が取り込むことができるのか。
新聞社が就職先としての魅力を取り戻せるか、あるいはこのままじり貧なのかは、この辺りにかかってきそうですね。